夏の物語(ぬら孫+友人帳)



ほんのひととき
交わした言葉は少なくとも
それは大切な出会い―…



□夏の物語□



ジリジリと照りつける太陽。頭上を木々に遮られているとはいえ、額に汗が滲む。
ミンミンと鳴く蝉の声が暑さを助長させているようで。

「ふぅ…」

リクオは心配そうに、自分の隣を歩くつららに視線を向けた。

「つらら、本当に大丈夫?無理してついて来なくても良かったんだよ?」

「だ、大丈夫です。私は若の…護衛、です…から…」

全然大丈夫そうには見えない、夏の陽射しに当てられ体調を崩しているつららに、リクオは困ったように眉を寄せた。

「ねぇ〜、まだなの?」

その後ろから、巻の間延びした声がリクオを通り越して、先頭を歩く清継に掛けられる。

「おかしいなぁ。地図でいくと確かにこの辺のはずなんだが…」

「…あの〜、清継くん。…その地図逆さっすよ」

「なにぃ!そう言う事は早く言いたまえ!」

横から島に指摘され、清継は慌てて地図の向きを変える。既に慣れたやり取りとはいえ、リクオの後方を歩く巻と鳥居、カナはそれぞれ呆れの混じった眼差しで清継の後ろ姿を見つめた。

「本当に大丈夫なの?」

「さぁ?」

「何かいつもこうなるね」

ちなみに、ゆらは家の事情とやらで今回の清十字怪奇探偵団夏の合宿第一弾は欠席だ。



◇◆◇



多々問題はあったものの、一行は無事目的の宿に辿り着き、その日は美味しい夕食と温泉に浸かって、翌朝までぐっすりと眠った。

「さて、そろそろ良いかな」

軽めの朝食をとり、食後のお茶でまったりしていた時、パソコンを弄っていた清継がおもむろに口を開く。

「もう出発すんの?」

えー、と文句が続きそうな巻に清継はその前にと、前置きをして言う。

「来る前にも説明したが、この近くの森には数多の妖怪がいるらしい。その中でも、白く美しい毛並みを持つ強力な妖怪がいるそうだ」

何十年か何百年前か、詳しい事までわからないけど、つい最近まで封印されていたその妖の封印が解かれ、今ならその姿を見ることが出来るそうだ。

「それってつまり…」

嫌な予感にカナは頬を引き吊らせて言い、清継はその言葉に被せるようにして、その通り!と得意満面な顔をして告げた。

「この合宿のメインはその妖怪を見つけることだ!」

見つけて、清十字団の新たな歴史の一頁として刻むのだ!

もちろん、見つけるだけじゃなく、話なんか聞けると尚良い!

無茶苦茶な清継の言動が、清十字団結成以来、何故か彼一人だけがこれまで妖怪に遭遇していないと言う、当人の思いは別として、しょうもない理由からきているのは皆が知っていた。

「でもさぁ、相手は妖怪なんでしょ?話なんか通じるの?」

「そこはだね、巻くん!話が通じそうな妖怪を見つけるのだ!」

「………」

さぁ、行くぞ皆の者!と、一人テンション高く清継は立ち上がる。

そこに果てしない程の温度差が生まれていても、結局みんなは清継の後を追って立ち上がったのだった。



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